歌うテナガザルが絶滅の危機

中国の南海沖、海南島の山の中では夜明けとともにテナガザルの歌声が聞こえてくるという。
木のてっぺんに登ったオスが鳴き始めると、その声は遠くまで響き渡る。鳥のさえずりのような声や、ホーホー、キーキーと高低さまざまな声をあげ、そこへさらにメスや子どもが加わると熱帯林は強烈な不協和音に包まれる。
カイナンテナガザルは海南島西部の覇王領国家級自然保護区に広がる16平方キロメートルの熱帯林に28匹前後が生息し、他の場所では見つかっていない。ここまで数が少ないと、台風、森林火災、感染症の流行といった事態にひとたび見舞われれば、たちまち絶滅につながりかねない。
国際自然保護連合は11月24日、絶滅のリスクが高い霊長類25種に関する最新レポートを発表した。カイナンテナガザルはその中でも生息数が最も少ない種だ。
カイナンテナガザルは体重8キロほどで、一生をほぼ林冠で過ごす。若い個体やおとなのオスは黒いが、おとなのメスはオレンジがかった金茶色のつややかな毛皮に包まれている。オス1匹、メス1匹、赤ん坊たちという家族構成が一般的だが、結婚相手が見つかっていない「独身」の若いテナガザルは森を単独でうろついている。
海南島にはかつて数千匹のテナガザルがいたが、密猟と森林破壊によって生息数が激減してしまったそうだ。このサルを丸ごと煮込んでペースト状にした薬は、漢方医学で強壮剤として用いられていたという。島の森では1960年代以降、紫檀などの高級木材が伐採されるようになり、さらにはゴムの国営プランテーションを開発するため皆伐が進んだ。低地の雨林が伐採され、テナガザルは高地への移動を余儀なくされた。だが高地の森はオークが多く、テナガザルが好むライチ、ランブータン、イチジクといった甘く柔らかい木の実が少ないため、草木の葉や若芽、虫などで食事を補うしかなくなってしまったことが何らかの影響を及ぼしたのではと専門家は分析する。
テナガザルの保護のためには科学調査と同時に、テナガザルの味方を増やすための取り組みも進められているという。かつて漢方薬の材料としてテナガザルを売っていた地元の村人たちを巻き込もうというのだ。地元の意識を高めるため、テナガザルをテーマにした村の祭りに出資したり、テナガザルの絵本を作ったりしているという。地元の人々は、絶滅の危機に瀕している動物が身近にいることを知らないのだ。
こうした地道な活動によって、少しでも多くのテナガザルが守られることを願う。